それはどうかな

心に引っ掛かったことを書き留めます

ああ、町田くんは君に囁く

9月に入って、CSの番組表に
一際目を引くドラマを見つけ
世間から遅れに遅れて、やっと観ましたよ。

町田啓太さんの記念すべき初主演作
西荻窪 三ツ星洋酒堂』
略して「にしぼし」でしたっけ?

あの時の「どんなに美しかろうが
卑劣な匂わせ野郎なんか、誰が見るもんか!」
……も、すっかりクールダウンした今日この頃。
こんなに冷静に鑑賞できる日が来るとはね。


さてさて


ところでこのお店、実にいい。
後の缶詰シェフになる中内くんが述べてたように、雰囲気が居心地良さそう。

特に照明。バーって薄暗いイメージだけど
ここは、それこそ小林くんのような
「ひとり読書でゆったり飲みたい」にもハマるし、客のスタイルを選ばない感じがまたいい。

それになんてったって、店に入った瞬間
タイトルバックのように、男前3人が一斉に
こっち向くんだぜ!
いやいや、気ィ失うわ!

そして肝心の主役、雨宮の佇まいが
これまた絶品。悔しいけど、認める。
立ち姿が本当に美しい。悔しいなぁ。

ほんでもって(御本人、相当練習したんだろうね)バーテンダーの所作も素晴らしい。
シェーカーを振る時の、斜め下に落とす視線に
不覚にもイチコロでございます。

優等生で優しくて、心の機微をいち早く察し
常に最善を尽くす好青年を
素直にきっちり演じられてました。

特に、あるトラブルを抱えた中内くんの
カクテルへの感想「甘くて美味しい」に
一瞬だけ過ぎった怪訝な表情は
本当に上手いなぁと思った次第。


……なんだなんだ?イヤに褒めるじゃないか。
どした?遂に町田啓太再評価か?


んーーと、本題はここからです。
一応主役と銘打ってますが
これは果たして主役なのかな?

先程の中内くんを始め
スランプ中の作家で二代目オーナーの小林くん
そして、次々と訪れる客たち。
皆「自分を不幸だと思ってしまう」夜を過ごす
その中心に、雨宮がいる。
だから位置づけとしては確かに主人公なのでしょう。

なのですが、役割的にはむしろ
狂言回し」の方が近いような気がするのです。

雨宮によって他の人たちの物語が動く。
その人たちの、これまで、今、これからが
生き生きと息衝き始める。
雨宮の役割はあくまでも切っ掛けの提示で
それ以上でもそれ以下でもない。

雨宮自身にも物語があるようなのですが
そっちの方がサイドストーリーかと思ってしまうほど控え目。

だからこれは、そういうお話だからであって
決して役者の力量云々のせいではありません。
いや、むしろ「自分を見てくれ」の主張が無い
町田啓太だからこそ演じられる役と言えます。

なので、雨宮のお兄さんが過去に叩きつけた
「お前には自分が無いのか、虚しくないのか」
が、そのまま町田啓太に向けられた言葉のように、どうしても思えてならないのです。

誰かから強い影響を受けることは
悪いことではありません。
皆、誰かしらの影響が有って、今が在ります。

しかしそれと、誰かの「受け売り」は違います。
例の件以来、この方の言動がまさしく受け売りだったことに
少なからぬ衝撃を受けたことは
記憶に新しいところです。

この役どころが、たまたま本人のキャラクターに合致してたのは幸いでしたね。
主役であろうとなかろうと
「縁有って頂いた仕事をきっちりこなす」に重きを置く姿勢なのですから。

奇しくも昨日『あさイチ プレミアムトーク』で
劇団公演中の大怪我の話から
当時の辛い思いや、応援してくれた方たちへの感謝、そしてそれに応えるための俳優としての覚悟を述べていらっしゃいました。

今こそ、それが実を結ぶ時なのではありませんか?
役を頂くのを待ち、as you like にして頂くのを待ち、今は向こうから次々と舞い込んでは来るでしょう。

が、時は残酷です。
いい波が途絶えた時こそ
底力と執念が物を言います。

「お前は本当は何がしたいんだ」
お兄さん、よくぞ言ってくださいました。
このセリフは本当に重いと感じました。



ところで、改めて振り返ると
黒沢→雨宮と来て、今の土方歳三に至ります。
彼なりの解釈でああなったのでしょうが
終始、囁くような優しい発声は
やはり土方のカリスマ性を削いでいると考える私の意見は変わりません。

黒沢も雨宮も、その声が功を奏しました。
土方でもそれが生かせるとするならば
修羅場における「鬼の副長」を
怖ろしさと殺気をしっかり見せてからの
素朴で意外な一面(篤太夫との故郷話)だと
思うのです。

と言っても、もう明日の箱館戦争でお別れですので
時すでに遅しですが。

最期の場面が有るのでしょうか。
もし有れば、直近の名場面「平九郎の最期」と
いやでも比べられるでしょう。

なんだか今から胸騒ぎ……じゃなかった
ドキドキします。