それはどうかな

心に引っ掛かったことを書き留めます

人生は選択の連続と言うけれど

以前、NHKBSで放送されたのですが
事前のチェックを怠って見逃してしまい
再放送を切望していたドラマ
『 黒い画集〜証言〜』を
先日、地上波放映で観ることができました。

過去、何度もドラマ化された
松本清張先生の有名な作品。
その最新バージョンを何故そんなに観たかったのかというと
設定が原作と若干違うことにより
主人公の人生を更に深く考えさせる作品になったからなのです。

どこが違うのか。
それが、主人公、まさかのゲイ設定。
(一応、推理物なので気を付けようと思ってますが、ある程度ネタバレします。あしからず)


金沢で内科クリニックを営む医師・石野貞一郎(谷原章介)は
ある殺人事件容疑者のアリバイ証言を躊躇い
結局、偽証してしまいます。
なぜなら、真実を証言してしまうと
自分の秘密が白日の下に晒されてしまうから。

その秘密こそが、愛人・梅沢智久(浅香航大)との密会だったわけです。
(原作では”女性”)

今現在「LGBTQ+」の概念はかなり浸透し
多様性を理解しようという動きは
徐々にではありますが、広まりつつあります。

が、実際問題、身近な人間が当事者だったら
となると、やはり複雑な感情が生じるのは
やむを得ないのかもしれません。

このドラマでも、妻・幸子(西田尚美)に異変を感付かれた貞一郎は
実は容疑者のアリバイ主張どおりで
仕事と偽って、その場所で”女性”と密会したから
隠したかったのだと(微妙に嘘を混ぜて)
告白します。

怒った妻は思わず引っぱたきますが
すぐに、真面目な夫の一度切りの浮気と割り切り、堪え、許すのです。

つまり、’”女性”相手の浮気はある意味想定内で
腹は立つけど「許す」選択肢は有りなのです。

ところが最後の最後にのっぴきならないことが起こって、妻に洗いざらい、今度こそ「真実」を告白した後に、妻の出した答えは
ある方法で「絶対に隠し通す」でした。

婿養子の夫の不始末から自分の家を守るため。
自分を女として愛してくれなかった夫から
自分と子供たちを守るため。


セクシャルマイノリティに厳しい現実を突き付けた内容で
胸を抉られるような思いに苛まれましたが
そもそもの誤りは
早くからゲイを自認していた貞一郎が
女性と結婚することによって
いわゆる「普通の男性」になろうとしたことではないでしょうか。

と、批判を言うは易く行うは難し。
貞一郎の年齢(40代半ば?)なら
そう決心した頃は
まだまだ差別意識が大きかったでしょうから
そういう生き方を選択せざるを得なかったのは
充分、理解できます。

だとしたら、もうこれは女性相手の浮気ケースと同様に
一切の欲を捨てて奥さんに滅私奉公するしか
平穏に生きる道は無いということになります。

しかしゲイにとって、これは地獄のような生活でしょう。
だから、真面目一筋な夫を完璧に演じてきた貞一郎でも
ひとたび、智久のような美青年に出逢えば
その魅力には抗えなかったのです。

ゲイなのに、それを隠して女性と結婚する。
若く美しい青年と関係を持つ。
どっちも手放したくないため嘘を重ねる。

こうやって貞一郎の人生の選択は
悉く破滅へと進んで行くんですね。

その点、若く独り身の智久は自分に正直です。
貞一郎への愛情を素直に表し
愛する男の伴侶に嫉妬し、家族を羨み
不毛な関係を精算しようとする。

板挟みの貞一郎を楽にしてあげたいという
形を変えた愛情にも思えるのですが
とにかく貞一郎には真似のできないドライな割り切り方が、内心苦しくてもできる人。

こういう、人生に対する考え方のすれ違いは
男男も男女も関係なく等しく起こることです。

が、ゲイ同士の関係を「恥と思うか、思わないか」に、お互い(愛し合っているのに)言及しなければならない辛さは
セクシャルマイノリティだけが余計に背負わされる重荷であると言えます。

持って生まれた性質が少数派であるがために
多数派には想像も付かないほどの
辛い選択を強いられる人生は
本人だけではなく、結局、周りの人まで不幸にしてしまうのです。

貞一郎の最初のつまづきが無かったら。
そうせざるを得ない風潮が少しは違ってたら。

「タラレバ」で物申すのは甘っちょろいかもしれませんが
「自分を自分たらしめるもの」を偽らなくていい世の中を、微力ながら目指したいと思うのです。皆が幸せになるために。



ところで、貞一郎役の谷原章介さん
やはりこの局のドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る』で
同じような妻子持ちゲイ・マコトさんを演じられてましたね。

マコトさんは、主人公の純くんを愛してはいたけれど
どこか「遊び」と割り切ってるようなクールさがありましたが
この貞一郎は、心底、智久に惚れており
かと言って家庭は捨てられないというジレンマに、ウジウジグチグチ悩む、実に情けない男。

この二タイプをしっかり演じ分けられていて
さすが、貫禄の主演俳優です。

そして相手役の浅香航大さんは
言わずと知れた『チェリまほ』の柘植先生!
童貞なのに恋愛小説の大家という
チグハグな面白さで好演されてましたね。

一方、こちらの智久はシュッとした美青年で
妖艶な色気を放つ、まさに「魔性の受け」。
あの、湊くんに振り回されてた柘植先生の面影など微塵もありません。
いやホントに、役者さんって凄いですね。

この、演技力、ビジュアル、共に申し分ない二人のラブシーンが
最高この上ないのは言うまでもありません。
これぞ、眼福。

え?実は、それが目当てだったんだろうって?

そりゃあ、違うと言えば嘘になるかもしれなくもないかもしれない……お察しください(笑)。