それはどうかな

心に引っ掛かったことを書き留めます

土方殿、せっかくの大河じゃ、ごゆるりと

ここんとこ一歩進んで二歩下がり
その一歩も、あっちゅー間に通り過ぎて
なんだか狐につままれた感が否めない
町田土方でございましたが。

やっと、ホントにやっと
俳優・町田啓太の真価が問われる
土方歳三」の人間描写という
一つの大きな見せ場がやって来ました!



ちょいと物騒な不穏分子を
捕らえることさえ億劫がる役人どもに
体よく仕事を押し付けられる篤太夫
そして、万が一の為に護衛する新選組

配下引き連れ、庭先に御登場の土方殿!

えーと、ところで、その覇気の無さは
新選組としての単なる日常業務に対する
「飽き飽き感」を表現したのかな?
またつまらない物を斬ってしまうなぁ
と。

だとすれば成功です。

第一声の「失礼する」が
もうすでにテキトーな感じで
「なんか、こっち手伝えって言われて
 来たんスけど。
 あ、どうも、土方っス」
と、字幕付けても違和感無いっス。

その後の、大体の段取りはこっちが付けといてやっから、あとヨロシク……も
セリフがさらさらと流れ
まるで春の小川のよう。
事務的。あくまでも事務的。

それに対する篤太夫の正論ぶちかまし
対比として生きてくるので
そういうセリフ回しも有りっちゃぁ
有りかもしれませんが
あまりにもさらさら過ぎて
所々ふわっと言葉が聞き取れないのは
頂けないんと違うんかねぇ。

比べて申し訳ないけど
太夫の、さして力説してるわけでもないのに
一言一言がきちんと耳に残り
尚且、人柄や感情が言わずもがなで伝わってくる語りとの違いは
一体なんだろうねぇ。


そして、いよいよ
手に汗握る立ち合いシーンへ。

まぁまぁ腕に覚えがあり
名代としての筋を通すため
売り言葉に買い言葉で
単身、敵に乗り込む篤太夫

この時の土方との短いやり取りが
良かったですね。

太夫って、やはり言葉が先に出ちゃう人なんだなぁ、と思います。
言葉が出て、行動が後から付いて行く。

今までは運が味方して上手く行ったけど
さすがに実戦経験が少ないので
不安もありーの
そのくせ妙な自信もありーの。

その複雑な緊張感で汗滲む篤太夫
お手並み拝見とばかりに
冷たく見送る土方殿。

あの耳元への囁きはゾクッとしますぞ。

さて、案の定
あっさり敵方に囲まれ
必死のパッチの篤太夫、危うし!

隅に追い詰められ
もはやこれまでか、南無三……!

そこへ「ヤーー!!」と
障子蹴破って助太刀に入る土方殿。
「神妙に縛に就け」と囁いてからの
怒涛の太鼓と何やら民謡調BGMに乗り
バッサバッサと斬りまくる。

カッコいいよ。カッコいいんだけど
最後の EXILE 歩きがなぁ〜
そりゃ篤太夫もビビるって。
モロそっち系の輩だもの。

本当の標的は押入れの中の敵でした。
「大事はござらんか、渋沢殿」
と、再び甘く囁く土方歳三
もう、恐いんだか、優しいんだか。


一件落着で二人語り合うシーンは
修羅場をくぐり抜けた男同士の
心の触れ合いを描くいい場面でもあり
大河の主役を張る俳優と
そうでない俳優との差が歴然としてしまった
残酷な場面でもありました。

本物の死の恐怖から解放され
命を助けてくれた土方への謝意を
最初偉そうな口きいた手前
軽口混じりで仄めかす可愛い篤太夫

そこから、土方へ心が開いていくのに連れて
本音と愚痴と嘆き節がダダ漏れ
情けない篤太夫

土方と同郷と知って
急速に親近感を得ても
それぞれがそれぞれの「己の道」を
行くしかないと腹を括る篤太夫

短い時間の中で移ろっていく心境を
的確に演じる吉沢亮、お見事です。

片や、脚本では篤太夫に絶好のパスを繰り出しているんだろうけれど
如何せん、表情の乏しい演技で
名アシストに届かなかった町田土方。

黒沢の時は一つ一つの言葉を大事にし
丁寧で緻密な演技だったのに。
今回の土方、サッサと撮影終えて
早く帰りたいのかってくらい
言葉がツルツル上滑りして行く。

次、いつ大河にお呼び掛かるか……
せっかくの機会なんですから
もうちっと、ごゆるりあらしゃれませ。