それはどうかな

心に引っ掛かったことを書き留めます

いろんな意味で 問題作? 大傑作?

えー、一度でも町田啓太という俳優に
心惹かれたことがある方の中には
この作品を、ある意味「諸悪の根源」と
捉えてる向きもお有りかと思います。

あぁ、あの件さえ無かったら……
私も当時、熱に浮かされて買った雑誌の束を
恨めしそうに眺めては
溜息吐く日々を過ごしたものです。

今回、お話ししたいその作品とは
あの件の片棒担いだ方とガッツリ共演された
『終着の場所』という映画でございます。

映画っていうから、どんだけ大層な物かと思ったら、全編20分の短編でした。
あんまり短いんで、番組表見てても
一度見落としたくらいです。

イヤな思い出が付きまとうので
初っ端から、心なしか嫌味な書き方になってて
申し訳ありません。

ネタバレいたします。



制作年を見たら、この作品の前にも一度
女子的生活』というドラマで共演されてたようなのですが
あまり接点の無い役柄同士だったので
その時は、ただ面識を持っただけなのかな?

っていうか、そのドラマでの彼女の方の役が
主人公の同僚の中の一人みたいな
端役だったものですから
私の記憶には全く残ってなかったのです。

しかも後々、あの件で存在を知っても
「そんな人、出てたっけ?」状態。
それくらい存在感の薄い女優さんなのです。

ところが、この『終着の場所』では
その、うっすい印象が功を奏しまして
三代目J Soul Brothersの楽曲『花火』が原案という、イメージどおりの儚さを体現してました。

とはいえ、花火は花火でも線香花火ですね。
華の無さでは唯一無二。
この役は彼女にしかできないと納得したのです。







冒頭、やり取りするメールの文面で語らせつつ
俊介(町田啓太)は東京から
加奈子(玄理)は地方の田舎町から
待ち合わせの場所ヘ各々列車で向かう様子が
交互に映し出されます。

この静かな出だし
駅舎と風景だけで表現される対比
文面だけで伝わる二人の関係

昔のATG(アートシアターギルド)映画を
思い起こさせる質の高い映像表現に
見る前の「EXILEの事務所絡みなら
大体あんな感じかな?」の予想が
良い意味で大きく裏切られました。
(あんな感じって、どんなだよ!笑)

俊介は東京のとあるホテルでボーイとして働き
玄関ロビーで仕事中
奥からフラフラよろけて出て来た女に目を留め
土砂降りの中、倒れ込んで号泣する彼女を心配し、声を掛け、介抱しようとオロオロします。

その女が加奈子。これが二人の出会いです。
俊介曰く「本気で女の人が泣いている姿を
その時、初めて見ました」だそうで
女の涙の威力ってスゴいんだなと
私はその時、改めて思い知りました。

ま、男女のくっ付く切っ掛けとしては
程々のドラマチック性ですね。
私はどうも、人前で大泣きされるのが苦手で
加奈子は「私の嫌いなタイプの女」だろうなとその時点で、薄々察知いたしました。

念のため申し上げますが
決してあの女優さんだからではありませぬぞ!

さて、一緒の目的ヘそれぞれの列車で向かう二人ですが
いかにも恋人同士のやり取りを交わすメールとは裏腹に
俊介と加奈子、表情が明らかに違う。

もうすぐ彼女に会える喜びで浮き立つ俊介。
片や、何か訳あり顔で車窓の景色をぼんやり眺めている加奈子。

バッグから、中身は指輪と思しき箱を取り出し
秘めたる決意を覗かせる俊介。
片や、車内の母子連れに目を留めて微笑むも
すぐに何かを思い詰める加奈子。

この二人の対照的な演技が素晴らしいんですよ。
俊介は真っ直ぐ一途な男の可愛らしさ全開で
加奈子は一目で「薄幸」な何かを背負っていると分かる。

ファミレス勤めにしては
爪伸ばし過ぎなきらいはあるけれど(笑)
ほぼスッピンみたいな地味な顔立ちの
伏し目がちで一点見つめた表情は
「ザ・訳あり」以外の何物でもありません。

と、加奈子、何を思ったか
「私、あなたに話したいことがある」と
メール送ったっきり、その後の俊介の問い掛けには、うんともすんとも返さないのです。

こういうところも嫌な女ですねぇ。
話を振るだけ振っといて、突然だんまり。
メールだけだから、急展開に追いつけず
さっきまでの幸せ気分から一気に奈落の底へ。
俊介、心配と不安で再びオロオロです。

何か手掛かりはないかと
過去のメールを手繰るうち、目に止まったのは
「本当に私でいいの?」の文面。

その後に続くのは、俊介からの
「年の差のこと?」(女が年上らしい)
遠距離恋愛だから?」(東京と田舎町)
「前に結婚してたから?」(女バツイチ)

それら質問に対しすべて曖昧な答えの加奈子。
で、俊介「そんなのオレ、気にしないから!」
という流れだったんだって、その時は。

加奈子=ヤな女で、ほぼ固まった私としては
結局、男のその言葉で安心を得たいだけなんじゃないの?
という、穿った見方しかできません。

この前のヘイサクもそこそこアホだったけど
俊介、いや、女に惚れ込んだ男って
こうも簡単に転がされるのかねぇ。

乗り換えのため降りた駅のホームで
差出人不明の画像を受信する俊介。
不審に思いつつ開いて見ると……

ベッドで寝乱れた加奈子、見知らぬ男
そして妖しく捻くれた赤い紐。

えーーっ!
普通の売り(普通ってのも変だけど)どころか
SMプレイはハード過ぎでしょう。
いや、問題はそこじゃないですね、失礼。

衝撃画像の送り主が直後に電話を寄越し
俊介のせいで彼女が冷たくなった
そっちもどうせ彼女を買ったんだろう、と
言いたい放題。

俊介は本物の地獄の底を見てしまいましたとさ。

それと並行して、加奈子も乗り換えで
別の列車のとある席に座ります。
そしたら偶然にも、向かいの席に居たのは
風俗店時代に同僚だった女。
(ここ、ちょっと出来すぎかな)

向こうはすぐに加奈子に気付き声を掛け
例のクソオヤジに当たったのは不運だったねと
あけすけに話すので
加奈子は居たたまれません。

どうやらその一件の後、店を辞めても
その変態男に付き纏われるわ
個人情報握られるわ、で
加奈子は進退窮まっていたらしいのです。

が、それを指摘されても
加奈子はどっちつかずの返事で誤魔化す。
好きな人ができたんだろうと聞かれても
曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す。

そこでとうとう元同僚はハッキリ言います。
「アンタのそういう曖昧な態度に
皆、迷惑するんだろうね」
これは心抉られます。図星中の図星。

この元同僚さん、若いのに達観してるんですよ。
体を売る女にはニ種類ある
アタシのように体以外は開かなくなるのと
加奈子みたいにまだ心が開けるタイプ、と。

そして、幸せは真っ正直だけで手に入るわけではない
嘘を吐き通さなきゃならないときもある、と。

私は「体を売るのがけしからん」と
言いたいわけではないのです。

加奈子がどういう経緯で離婚したのか
どういう経緯で風俗嬢に身をやつしたのか
そして、その風俗店の規約として
どこまでOKしてたのかはわかりません。

愛し合って、愛が高まった先の行為を
愛無しで行なうことが
どれほど精神を毀損してしまうのか。

高い給料と引き換えに
人間として大事な何かを失うかもしれないことは分かっていたはず。
そして、決して大きな声では言えない職業であることも。

加えて、それなりの金銭を受け取るならば
大前春子じゃないけれど
お時給の分、しっかり働かせて頂きます。
プロとして、お客様の御満足のため
しっかり御奉仕させて頂きます。は、基本。

それら覚悟も無しに
手っ取り早く稼げるからと足を突っ込み、挙句
「やっぱり本物の愛が欲しい」だの
「この仕事のことバレたらどうしよう」だの
「客の要求を選り好みできない」だの
(台詞では言ってません。
具体的なことは何一つ言わないけど、お察し)

不満やら困惑やらで
世の中の不幸を全部背負い込んだような顔をして
なのに、煮えきらない態度で他人を惑わせる
この加奈子のような女に腹が立つのです。

俊介と出会ったあの日。
まさに尋常でない行為を強要され
ボロボロになって号泣したのでしょう。

が、もしそれが普通レベルの売り行為だったら
加奈子は何事も無かったかのように
スイスイとロビーを突っ切って出て行ったはず。

体を売るのに慣れるとはそういうことです。
たまたま酷い目に遭ったから取り乱し
たまたま俊介の優しさに触れ
「やっぱり愛する人と幸せになりたい」ヘ
たまたま舵を切っただけなのです。

加奈子のその「甘さ」を
元同僚さんは見事に突いたわけですね。

えー、ここからは『花火』をBGMに
海で戯れる幸せ真っ盛りの頃の二人を
鑑賞することになります。(ちょっと苦痛)

なんだ、結局ミュージックビデオみたくなっちゃうのかな?と、思いきや
それは俊介がスマホで虚しく見ていた
二人の思い出動画でした。
(しかもディスプレイはヒビだらけ。悲しい)

乗り換えホームに留まったまま
約束の場所へは行けなくなった、と
加奈子にメールを送ります。

これで何が起こったか悟ってもいいはずなのに
「待って、話がしたい、信じてほしい」と
まだ食い下がる加奈子って、どーよ?

俊介、悪いこと言わん。その女は止めとけ。
という私の思いがまるで届いたかのように?
「さようなら」を告げる俊介。 

その時、二人で見に行くはずだった花火が
遠くの空に上がり、俊介見上げるのですが
映像としては後ろから引きで撮っていて
花火がホームの屋根に隠れて少ししか見えないのです。

一方の茫然とした加奈子が見上げた花火も
車窓越しの不完全なもの。
見事に二人の心の隔たりを描写しています。

そして一夜明けて、問題のラストシーン。
何故か俊介は折返し東京へは帰らず
遅くなっても目的の駅に到着したんですよ。

えっ?この期に及んで、やり直す気?

もっとビックリなのは向かいのホームに
そこで一夜明かした加奈子もいて
線路越しに「俺、全部聞いたよ」
「私、あなたと幸せになりたいの」という
聞いてるこっちがポカーンな会話が始まるんですねぇ。

もう、いい加減にせーよと言いたくなる
こちらの気持ちをぶった切るように
二人の間を列車が横切り
思い詰めたように何か言いたそうな俊介の言葉を
無情に掻き消したのでありました。

終わり。





さぁ〜て、問題です。
最後の最後に俊介は何と言ったのでしょうか?

あのまま東京へUターンせずに
約束の場所ヘ向かったってところが
混乱させますよね。
後は皆さんの御想像に……なのでしょうね。

もし、別れを思い止まって続いたとしても
この加奈子って女は一事が万事この調子で
俊介は振り回されるでしょうね。

演者お二人は、役のイメージどおりで
好演されたと思います。
映像も美しく、ひとつの愛の物語として
佳作だったのではないでしょうか。

ただ、私から見た加奈子は
イライラを誘発するだけの女性で
とても同情できませんでした。

重ねて申し上げますが
アノ女優さんだから、ではございませんよ!